今日も堂々とジブリが好きと言います。高畑勲監督のこだわりと犠牲、鈴木敏夫さんの献身、宮崎駿監督の才能。

日記

© 1999 いしいひさいち・畑事務所・Studio Ghibli・NHD

(名作「ホーホケキョ となりの山田くん」)

なんで「ああ、ジブリ笑」って言うの?

あなたも100人並みと思うかもしれませんが、私はジブリが本当に好きです。

人生に大切なのは、自分の信念と、物語だと思っています。中でもトップクラスに位置するのがジブリだと思うんです。

ただ、ジブリが好きと言うと「ああ、ジブリ笑」っていう人が多いんですが、、ジブリ好きでもよくないですか?あなたもジブリ好きでしょう? 太田光さんのように「宮崎駿は説教くせえんだよ」と開けっぴろげに言うのはむしろスカッとしますが、好きなのにそういう態度ってあまりじゃないですか? 超面白いですよね?

宮崎駿監督、高畑勲監督が文字通り人生を賭けて描いた作品は、組織で物語をつくる現在のディズニーにはない魅力があると思います。好きだから本も読むし、何回も見る。それを半笑いって…。

と、随分悩みましたが、今は「半笑いにされても良い」と割り切っています。そう思えたのは鈴木敏夫さんの著書を数冊読んでからのことでした。

高畑勲監督の迫力と犠牲

高畑勲監督作品「ホーホケキョ となりの山田くん」より

鈴木敏夫さんの著書を読むきっかけになったのは2018年、高畑勲監督の訃報があった時期でした。ジブリが文春と共同で制作している、ジブリ作品の書籍シリーズ「文春ジブリ文庫」の抜粋を読んで、鈴木敏夫さんと高畑勲監督さんに興味が湧いたのでした。

当初は高畑勲監督のことも、鈴木敏夫さんのことも正直知りませんでした。「火垂るの墓」やは小学校のときに見たことがありましたが、戦争嫌いで、作品のえぐみに耐えられなかった私は、それ以来高畑勲監督のことを警戒して(笑)他の作品を見たこともありませんでした。ですが、連載を読んでいるうちに「この人、超すごい人だ」と思い、鈴木敏夫さんの著書を漁り、高畑勲監督の作品を漁り、すっかりファンになりました。

私もそうですが「ジブリといえば宮崎駿監督」というイメージが強いです。実際、ジブリでは宮崎駿監督以外は原作なしの作品を手がけることはできません。(例外は高畑勲監督の「平成狸合戦ぽんぽこ」のみ)

高畑勲監督作品「平成狸合戦ぽんぽこ」より

しかし、鈴木敏夫さんの著書には宮崎駿監督と同じくらい高畑勲監督の話が出てきます。そして必ず語られるのは宮崎駿監督にアニメの演出を教えたのは高畑勲監督であり、鈴木敏夫さんに映画プロデュースの方法を教えたのも高畑勲監督ということ。

ジブリの基礎はもちろん、アニメ界の演出の基礎を作り上げたのは同監督と言わんばかりの話が大量に出てくる。そんなにすごい人なのか? と思い、様々な著書を読んで映画を見ると、たしかにすごい。

高畑勲監督のすごいところを簡単に書くとこういう感じです。

①宮崎駿監督、アニメ界に多大な影響を与えている

宮崎駿監督の先輩。アニメ制作や演出に影響。TVアニメ創成期に「アルプスの少女ハイジ」や「赤毛のアン」、「じゃりン子チエ」などを監督として手がけており、後のアニメーターたちに大きな影響を与えているそうです。

②アニメ作品を使って人類学者、歴史学者的な試みをしている

「赤毛のアン」の舞台であるカナダの民俗学・風俗史を念入りに現地調査した上で精巧にアニメ表現を実施したりしています。晩年はフランス文学者としてアニメ監督以外の仕事にも従事していたようです。

③「柳川堀割物語」で見せたノンフィクション、ルポ的作品への造形

見たことはないですが、「風の谷のナウシカ」の売上をすべて食いつぶして、宮崎駿監督の貯金もすべて使い果たした作品。超見たいのですが、TSUTAYAにすら置いてないので手が出ません。(TSUTAYAディスカスにはありました)

④作品を面白く、エンタメ性を成立させた上で挑戦する、風俗史的表現と超越した演出

上記の視点で時代・表現を追求している一方でエンタメとしても楽しめる物語が魅力です。鈴木敏夫さんは高畑勲監督の作品を「文学映画」と表現していますが、私はどちらかというと「芸術的娯楽」だと思っています。

⑤高畑勲監督が生んだ犠牲、そして圧倒的な表現

そして最後は、アニメ表現や演出への異常な緻密さへのこだわり。それゆえ生まれた犠牲、そして圧倒的な表現。

高畑勲監督はアニメプロデューサーを行うと納期・予算は確実に担保する一方で、自身が監督をする際には必ず期限は遅れ、予算は超過し、イラストレーターたちは過労で倒れるほど異常なこだわりを持つ人物だったそう。「耳をすませば」の監督を努めた近藤喜文監督(47歳没)は高畑勲監督の異常なこだわりのせいでなくなったとさえ言われています。

近藤喜文監督作品「耳をすませば」より

これを機に、高畑勲監督はもう監督をやらないと言っていたそうです。

また、こだわり抜いて制作した「ホーホケキョ となりの山田くん」が大赤字(ジブリ史上当時最多の作画17万枚、10億円以上の赤字?)だったことも監督作品が減った要因であるともと言われていますが、高畑勲監督の熱狂的なファンであり、ジブリ初代代表取締役、日テレ元会長である氏家齊一郎さんに頼み込まれたことで「かぐや姫の物語」を再度監督として手がけることにしたそうです。

高畑勲監督最後の作品「かぐや姫の物語」より

(「かぐや姫の物語」の作画枚数は50万枚。氏家さんは上映前に亡くなったそうですが、高畑勲監督が作品を手がけることを喜んでいたそうです。「千と千尋の神隠し」は11万枚、「もののけ姫」が14.5万枚らしい)

一方でその異常なこだわりから生まれる作品の魅力は圧倒的でホーホケキョ となりの山田くん」と「かぐや姫の物語」はその表現力に鳥肌が止まりません。

物語のトーンは一見単調のように見えて、好みじゃない人は多いかもしれないですが、騙されたと思って最後まで見てください。圧倒的な演出力はもはや伝説のレベルだと思います。(特に山田くんが本当にすごい)

鈴木敏夫さんがジブリをつくった。

宮崎駿監督作品で、アニメージュで連載をしていた「風の谷のナウシカ」より

高畑勲監督が宮崎駿監督のアニメ演出の師匠なら、宮崎駿監督が描くものを心血注いで支えたのが鈴木敏夫さん。

ジブリについて調べはじめてから、しばらくこの鈴木敏夫さんへの立ち位置がよく理解できませんでした。(ジブリ初心者だったので、表舞台によく出てくる鈴木敏夫さんの役割や功績というのがいまいち掴めなかったのです)

作品の売上・制作環境への関与

まず理解したのは(普通に知っている人なら知っていますが)圧倒的な成果を残している「プロデューサー」としての鈴木敏夫さんの仕事です。映画制作の予算やスケジュール・制作状況を管理する仕事に加えて、宣伝を戦略的に実施してジブリ作品を大ヒットさせる。そして得た収益は次の作品にフルで投資して、宮崎駿監督、高畑勲監督の映画作品を作ることに専念することができるということです。

文字通り鈴木敏夫さんがいなくてはジブリ作品は生まれなかったものが多いと思いました。

(ちなみにジブリ初制作の「風の谷のナウシカ」も、鈴木敏夫さんが徳間書店の編集者自体に中心となって創刊した「アニメージュ」での連載を行った後、共同で制作を行っています。その後、ジブリに参加後は高畑勲監督にプロデューサーとしての作法を学んだそうです)

作品内容への関与

もう一つの側面は「アニメ製作者」としての役割。実際にはプロデューサーは監督ではないし、鈴木敏夫さん自身が監督した作品はありませんが、宮崎駿監督や高畑勲監督との距離がとても近い鈴木敏夫さんは、映画作品の中身に口を出すことも多かったそうです。

元敏腕編集者であった鈴木敏夫さんは、ヒットを生み出すための演出にも長けていた上に、ヒットさせるための消費者の心を掴むのもとても上手。両監督の作品において消費者に理解されにくそうなものや、ヒットすることを阻む要素を、作品性に影響を与えない範囲で排除することもしていたようです。

クロネコヤマトとタイアップした宮崎駿監督作品「魔女の宅急便」より

(例えば、「魔女の宅急便」のクロネコヤマトタイアップ、「風の谷のナウシカ」での演出に対しての提言、ジブリ作品への有名芸能人の起用などを手がけています。)

宮崎駿監督・高畑勲監督の強い意志の舵をとる鈴木敏夫さん

この2つめの役割を知ったときに、鈴木敏夫さんの立ち位置を理解できたような気がします。

宮崎駿監督、高畑勲監督の両監督の考え方や作品に対する思いを著書やインタビューなどで見ていると、芸術的な感覚や、消費者の心に理解されなくてもいいという感覚、ヒットさせる・売ることよりも他の価値を重視したいと考えている瞬間が見えてきます。

必ずしもヒットさせることが成果ではなく、史実を表現することや、アニメ表現を追求することが目的の一つになっていた高畑勲監督。自分の描く世界を広げたい、届けたいと考える宮崎駿監督。両者の思いを汲みながらヒットに導くという絶妙なバランスどりをしているのが鈴木敏夫さんなんだと思います。

最初に鈴木敏夫さんの著書を読んだときに「宮崎駿監督、高畑勲監督は知ってるけど、この人は?」と正直なっていたのですが、今は「鈴木敏夫さん(と宮崎駿監督、高畑勲監督の3人)がジブリをつくったんだ」と腑に落ちています。

宮崎駿監督作品ではなく、「ジブリが好き」

鈴木敏夫さんは、宮崎駿監督の作品に対して「それっぽく描くのがうまい」という評価をします。それは、宮崎駿監督が描く「見たこともない世界」や「見たこともない機械」の魅力に対してのコメントです。一方、高畑勲監督のことは「正確に、忠実に描く」という評価をします。

対局にいる存在がつくってきた「ジブリ」と、鈴木敏夫さんが支えてきた「ジブリ」の姿を知ったとき、改めてジブリの存在を魅力的に思いました。

そして「宮崎駿監督作品以外のジブリ」を知ったときに「ジブリが好きです」と答えられるようになりました。

 

高畑勲監督は亡くなってしまいました。そして、宮崎駿監督が亡くなったあとはジブリをたたむ、という発言もしているようです。宮崎駿監督の息子で「コクリコ坂から」などを手掛けた宮崎吾朗監督や、「思い出のマーニー」や「借りぐらしのアリエッティ」を手がけた後「メアリと魔女の花」を公開した米林宏昌監督も、作品を公開し続けてくれると思いますが、今後宮崎駿監督と鈴木敏夫さんが目指す「ジブリ」が引き続き楽しみです。

 

※画像はスタジオジブリ公式サイトより(画像公開も鈴木敏夫さんの思いがありました「スタジオジブリ作品、場面写真の提供開始の裏に「消える」危機感」)

コメント